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福島家庭裁判所郡山支部 昭和42年(少ハ)1号 決定

本人 Z・G(昭二二・六・二生)

主文

本人を昭和四五年六月一日まで医療少年院に継続して収容する。

理由

本件収容継続申請の要旨は

(1)  本人は、昭和四一年六月七日付福島家庭裁判所郡山支部の医療少年院送致決定に基づいて昭和四一年六月一四日より当院に収容中のところ、昭和四二年六月七日、少年院法一一条一項但書の規定による収容期間が満了するものである。

(2)  然しながら本人は、入院当初から不安不眠状態が続き、やがて発揚状態を来たし、言語は支離滅裂となりわめいたり、歌つたり、貸与品はことごとく破かいし、窓は破り、ガラス片で自傷したり、陰毛をそつたり便器の中に頭を突込み裸で走り回り、室内に放尿し、ふん尿を自己の身体に塗りつけ、性器を公然と玩弄したり、時には首つり自殺行為や、頭を壁にぶつつける等常人には予想もつかない奇行が数ヶ月続いた。

このような状況下では矯正教育の対象とならず、単独室に収容して身体の安全の確保を図るとともに精神科専門医による診断治療も回を重ねたが、症状の傾向からして俄に何方の精神病とも断定できないため、当分の間、経過観察と対症治療に当つて来たものである。その後、四一年一一月に入り、行動が抑うつ的になり、独言したり、壁に向つて手を合せる等の行為こそ見られたが、奇行は徐々に影をひそめ、発揚状態が鎮り、現在小康状態にある。

現在は、長期療養生として雑居処遇を試みて人間関係の疎通性の発芽を促し、徐々に集団処遇になじませるべく、日中二乃至三時間程度屋外軽作業による療法を実施しているが、この小康状態は果して一時的なものか持続するものか疑わしく、本格的矯正処遇を実施するに至つていない。

そのため現在でも、処遇段階は二級の上に留まり、若し、集団処遇が可能であつて、職業補導等本格的指導に移行させることができ、且本人が良好な成績を保持したとしても最高段階である一級の上になるのは本年一〇月一日の予定であるが、安易な予想は困難である。

(3)  本人は福島県少年鑑別所の鑑別結果によれば、知能指数四〇の痴愚級の精神薄弱者で性格的には興奮衝動型、支離滅裂型の異常性格のうえ接技性分裂症の疑があると判定されており、また当院入院後の精神科医の診断によればてんかん症とされており、他方身体的には右足大たい部骨折後遺症による機能不全があり、心身共に資質的欠陥が重度のものであつて、これが改善を期待することは困難ではあるが、現段階では精神薄弱者施設や精神病院を利用できる見通しがたたない以上、当少年院においててんかん症の治療と併せて精神薄弱者教育と緻密なる人格指導を進めて行く必要があり、それには相当期間を要することは当然である。

(4)  保護関係としてはその家庭環境から見るに、母は全快したとはいえ精神病に罹患し入院したことがあり、父は眼を患い、一方家庭内の折合は悪く、父、兄共に酒の上の乱暴沙汰等がある模様である。このように一家の資質的負因や素行問題を有する者達の中に介在して直ちに安定した生活状態を保つだろうとすることは首肯され得ない所である。本少年の将来については特にその重度の自立困難性の資質的欠陥を考慮し、相当長期間強力な指導援護をなされなければならず、なお一層の矯正指導をなし、更に予後措置として家庭ぐるみでケースワーカーの指導に委ねることが肝要と思われる。かかる措置なくして出院させることは今後再非行の危険性真に大であるといわなければならない。

(5)  以上述べたとおり、本人は未だ犯罪的傾向が矯正されず、退院が不適当と認められるので、少年院法一一条二項の規定により、本人に対し、本人が満二三歳に達するまで、保護観察の期間を含めて収容を継続されたく申請する。

というにある。

そこで判断するに、盛岡少年院長渡辺正止並びに岩手大学精神神経科医師加茂谷正司作成の各意見書、家庭裁判所調査官山口照光作成の少年調査票並びに調査報告書(本人並びに盛岡少年院分類保護課長福田秀男同少年院教官白石学、同林利雄の各供述記載)並びに一件記録を綜合すると、本人は、身体的には右大たい部骨折後遺症による機能不全、精神的にはてんかん及び痴愚級精神薄弱に加えて興奮衝動型、支離滅裂型の異常性格者で、心身共に資質的欠陥が重度のものであるが、従来も病院に入院中自殺を企て、或は看護婦の制止をきかずに病室で高唱したりする等の異常行動があつて精神科医の診断治療を受けたことがあり、昭和四一年六月一四日盛岡少年院(医療)に収容されると、その直後から、本件収容継続申請書記載のとおりの顕著な異常行動が続発し、更に突発的にてんかんによると思われる頭痛眩暈意識障害があつて、少年院職員との間の人間関係の疎通を著しく欠き、院内の処遇は、その対症療法と身体の安全の確保のみに終始して、暫くは矯正教育のらち外にあつたことその後本人の異常行動が小康状態に入るのを待つて、昭和四二年一月一日本人を単独室から休養室へ移して身体の回復を図るとともに雑居処遇を試み、更に同年五月一六日からは園芸科に編入して、日中二・三時間程度、休養室から草むしり程度の軽作業に出るのを許して徐々に集団処遇になじませるべく試みてはいるが、何分異常行動再燃の虞れも多分にあり、現在その経過を観察している段階で、本格的矯正教育を施すには至つておらず、勿論従来の矯正教育による効果も満足すべきものでないこと、以上の事実を認めるに十分である。

上記認定の処遇経過並びに本人の心身の重度な資質上の欠陥並びに本人の非行歴を綜合して考えると、本人の犯罪的傾向は未だ矯正されたとは認められず、特にその心身の著しい故障よりみて、このまま退院を許しても、円滑に社会復帰できる可能性は少なく、むしろ再犯に至る虞れが大きいといわなければならない。とすればその更生を期するため、引続き経験の豊かな専門家の手による本格的な生活訓練と精神薄弱者教育を施す必要があり、そのため本人を医療少年院に継続して収容することは誠にやむを得ないところである。

そこで本人について必要な収容継続の期間について考えると、家庭裁判所調査官山口照光作成の少年調査票及び調査報告書によると、本人は、少年院内の処遇段階上現在二級の上にあり、異常行動を再燃することなく極めて順調に経過すれば、昭和四二年一〇月一日には最高段階である一級の上に達する見込であるが、本人の如くその心身の資質的欠陥が重度のものにあつては、社会生活をまがりなりにも送るに必要な、ある程度の社会適応力を身につけさせるため、処遇段階にとらわれることなく、今後少くとも一年程度少年院内で生活訓練と精神薄弱者教育を施すことが必要である。しかも本人の家庭の受入れ態勢は現在極めて不良であつて、実父は無知無教養で酒に己を失する状態で監護能力がなく、実母は精神分裂病で入院中であり、他に本人を監護する力のあるものは見当らないので、本人が少年院を退院したのちも、予後措置として相当長期間に亘り、専門のケースワーカの手による指導援護が必要となることは充分に予想できるところである。以上の事情を勘案して、少年を医療少年院に収容継続する期間は、仮退院後の保護観察に必要な期間も含め、少年が二三歳に達する日の前日である昭和四五年六月一日までと定めるのが相当である。

よつて少年院法一一条四項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 渡辺剛男)

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